今求められる人材戦略 ~働く人を尊重する人材マネジメントの時代~

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  • 学習院大学
  • 経済学部 経営学科 教授
  • 守島 基博 様

採用とリテンションが人材マネジメントの中核

働く人の意識が大きく変わり、人材が、企業との関係における自己のニーズ充足を重視し始め、満たされない場合は他企業への転職もいとわないようになっているなかで、企業は新たな知識と経験をもった人材を確保しなければならない状況が常態化し、同時に、確保した人材が流出する可能性も高まっているのである。そして労働市場全体としては必要な人材は枯渇している。

こうしたなかで、冒頭で述べた「企業経営のために必要な人材を確保し、活用する」人材マネジメントにおいては、何が重要なのだろうか。当然、採用という機能はこれまでにも増して重要になる。また同時に重要になるのは、リテンションである。ただし、リテンションとは、採用した人材を単に繋ぎとめるだけではなく、戦略の達成に貢献してもらうことまでも含んだ概念である。アジアを含む、グローバルにタレントウォー(人材獲得競争)を戦っている企業では、採用とリテンションが人材マネジメントのすべてだと言い切るケースも出てきている。わが国の企業も採用とリテンションを中核とした人材マネジメントに大きく舵を切るべきだろう。

人中心の人材マネジメント

そして、ここでさらに重要なのは、人材マネジメントの根本的な見直しである。具体的には、これまでのような働く人を戦略達成のための単なる資源として捉えるのではなく、一人一人を尊重し、個のニーズや希望を把握し、それに可能な限り応える人材マネジメントへの転換である。これまで人材マネジメントというと経営戦略との連動が強調されてきた。必要な人材の能力スペックは戦略から導かれ、育成や配置転換は企業の経営上の必要性を第一に考えて実施される、という具合である。

だが、先にも述べたように、今後働く人は強い意思をもち、その企業で自分のニーズや希望が満たされないと考えたら、貢献を止めたり、また他の選択肢を選んだりする可能性が高くなる。逆に自分のニーズや求めていることが今の企業で満たされるという認識があるとき、その企業に雇われ続け、企業に残り大いに貢献をする可能性が高くなるのである。これまでにも増して、経営戦略と人材貢献を結びつける媒介変数としての「人のココロ」を重視する必要性が高まったのである。特に優秀で、企業が必要な経験とスキルをもった人材ほどそうである。

実は、こうしたことにいち早く気づいたのが米国西海岸のIT系企業である。よく報道されるのは、キャンパスと呼ばれる広い敷地内の福利厚生施設や働き方の柔軟性(テレワーク等)であり、働く人に極めて働きやすい環境を提供しているように思える。だが、これだけではない。着目すべきなのは、職務の自己選択やそれに伴う役割の明確化や成果評価など、働きがいの側面でも「働く人のココロ」を大切にする面である。

わが国でも、採用やリテンションに限らず、真の意味での「働く人のココロ」を大切にした人材マネジメントが必要な時期に来ている。ただ、その時に重視しなければならないのは、昨今の働き方改革で重視されるような働きやすさの面だけではなく、働きがいやエンゲージメントを高める施策を同時にいれることである。例を挙げれば、自己申告異動の真剣な運用や1 on 1による個別のフィードバックなどである。

米国西海岸の企業を真似しろとは言わない。働く人の求めるものを理解し、働きがいと働きやすさを総合的な面から提供し、価値ある人材(人財)となってもらうための人材マネジメントへと転換するべき時期なのである。

 

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