多様性を推進し、「グループ一体経営」を進化させる

  • 東京海上ホールディングス株式会社
  • 人事部長
  • 鍋嶋 美佳 様

多様性を推進し、誰もがフェアに「一個人として」評価される組織へ

南:グローバル化を進めるうえで、必ず出てくるキーワードが「ダイバーシティー&インクルージョン」だと思います。組織における多様性について、鍋嶋さんのお考えや、会社として大事にしていきたいことがあればお聞かせいただけますか。

鍋嶋:一人一人の才能や個性、働きがいを大事にする組織でありたいですね。日本では、ダイバーシティーというと「女性活躍推進」がクローズアップされがちであると感じます。しかし本来の多様性とは、宗教や肌の色、年齢、LGBT(性的少数者)など、多岐にわたるものです。私自身、1991年に当時の総合職として東京海上火災保険に入社し、いわゆる男女雇用機会均等法の第一世代として、さまざまな場面で「女性だから」といわれる経験をしてきました。昨今ではこの風潮も変化したとは感じていますが、もっと誰もが「一個人として」フェアに評価される時代になってほしいですね。

南:「女性活躍」を体現してこられた鍋嶋さんだからこそ、その言葉に説得力を感じます。鍋嶋さんは、企業として多様性を推進すべきなのはなぜだと思いますか。

鍋嶋:「人が成長するために必要な土壌」だからです。性別や社歴などに関係なく、一個人として働きがいをもって輝けて、活躍できる土壌を作ることがインクルージョンではないでしょうか。会社は「人」の集合体です。そして、企業の成長は「人の成長」が源泉になります。ですから、多様性の推進は、会社の成長戦略の一つだと捉えています。しかしながら、まだ世の中の実態としては、「労働力人口が減ったから、女性も社会参画するべき」という文脈で「多様性」というキーワードが使われているケースも少なくないですね。

南:「働くことに対する価値観の変化」と同様、日本での「多様性」への理解・浸透にはまだ時間がかかるかもしれないですね。しかし、女性活躍推進の流れから、働き方改革や労働時間規制が進みつつあることは、一つの成果です。私は、スポーツのようにルールを明確にしたうえで、そのルールのなかで誰もが活躍できるフィールドを用意する、それがこれからの働き方だと思います。

鍋嶋:当社も退社時間や会議時間などのルール作りや業務の効率化には力を入れています。リモートワークも浸透してきていますが、アメリカと比べると、まだまだ効率化できる余地があると感じます。アメリカとは社会構造やメンタリティーの面で異なる部分もありますが、今後、日本も「ワークとライフのバランスは、自分でとる」という考えが広がるよう、取り組んでいきたいと思います。

私からも南さんに質問なのですが、冒頭に申し上げた「働くことに対する価値観」は、なぜこの数年で大きく変化したのだと思われますか。

南:一つには、2008年のリーマン・ショックと2011年の東日本大震災は、働き方に関して大きなインパクトを与えたと思います。「会社とはなくなるものである」と改めて気付かされたり、さらには「働くことの意味とは」という問いを突きつけられたりするなど、働きがいや幸せの定義についてみんなが考えさせられました。

また、「人生100年時代」という現実が社会全体に浸透してきたことによって、多くの方が自身のキャリアを逆算して考えるようになりました。例えば、私が就職したころは「60歳定年」といわれた時代でした。

しかし、われわれの世代は、人生100年時代において80歳まで働くと予想している方もいます。これがどのようなことを意味するか。私が新入社員のとき、当時23歳でしたが、60歳まで働くとなると合計で37年間働けば定年までたどり着きました。ちなみに、私は今年で社会人になってからちょうど20年が経過しまして、現在43歳です。ここから、もし80歳まで働くとすると、実は、まだ37年も残っていることになります。これまで20年働いたにもかかわらず、まるで新卒時代の振り出しに戻ったようなものです(笑)。

そして、恐ろしいことに、私の個人的な予想では、現在の20代の若い世代は、85歳まで働くことになるでしょう。労働寿命は確実に延びています。一方で、情報技術の発達によって、企業やビジネスモデルの寿命は、逆に短くなってきている。そうすると、必然的に「どうすれば社会で活躍し続けていけるのか」を考えざるを得なくなります。その漠然とした不安が、働き方を再考する最大のトリガーになったと考えています。

定年後のプランがある程度見えている今の50代、60代の方々と、働き方や社会保障などの将来が見えない20代とでは、働くことに対する価値観が根本的に異なります。働くことへの認識の世代間ギャップは、今後ますます広がっていくといえるでしょう。

鍋嶋:そうですね。「多様性」というと性別や人種などにフォーカスしがちですが、世代間の違いこそが、日本の企業が直視すべき一番の課題かもしれません。

南:世代間のギャップを見据えたうえで、人材の活用や育成ができれば、多様な価値観・経験が尊重される強い組織になっていくはずです。

鍋嶋:保険サービスが「ピープルズ・ビジネス」といわれるように、当社の財産は「人材」だと考えています。その人材が働きがいを感じモチベーションを高く保ちながら、「一緒に働いていこう」というカルチャーが、事業の成長に欠かせません。「日本で一番『人』が育つ会社」を目指し、社員一人一人の「成長したい」という発意に応えるため、自助をサポートする仕組みや制度を構築していきたいと思います。

南:鍋嶋さんのように多様なバックグラウンドを持った経営人材は、まだまだ日本社会では少数です。多様性を生かすことが求められるこれからの社会で、さらなるご活躍を祈念しております。

鍋嶋 美佳 様 略歴

1991年に米国デビッドソン・カレッジを卒業。同年に東京海上火災保険株式会社(現・東京海上日動火災保険株式会社)入社、企業損害部に配属。1995年には東京損害サービス第一部に異動し、2000年に神戸に転勤、2003年にニューヨーク、2006年にはロサンゼルスと7年間アメリカに駐在。2010年に帰国しコマーシャル損害部、2014年には埼玉損害サービス部に配属。一貫して損害サービス畑で企業や個人の事故の事案解決や訴訟対応の他、災害対策室の運営をリード。2017年には東京海上日動の米国現地法人「Tokio Marine America」のシニア・バイス・プレジデントに就任。2019年4月、東京海上ホールディングス人事部長に就任し、グループの人事戦略、グローバル化、ダイバーシティやウェルネスを推進。

取材・文:田中 瑠子
カメラマン:中川 文作
記事掲載:2019/12/18

 

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